寒い季節も


 

 

 

 

「中嶋さん、ここ、ここ」

「何だ」

「いーから、ここ座って」

 

夜の冷たい空気を纏わりつかせたまま人の部屋に来た和希のために温かい飲み物でも、とキッチンへ向かった中嶋の背に、和希は甘えたような口調でねだる。

後ろを振り返った中嶋の目に映ったのはラグの上に座り、自分の隣を叩く和希の姿。

 

こいつは本当に成年なのか。

この学園の理事長なのか。

 

力いっぱい疑問に思った中嶋を責める人間はきっといない。

 

 

仕事で遅くなったのは間違いなく、1日中働いて疲れているのだろう。

年末に向けて忙しいのは社会人の常で、少しやつれた理由も仕事のせい。

 

だけど、和希の仕草は社会人には見えないほど子どもっぽい。

 

「はーやーくー」

「・・・・・お前は本当に・・・」

「?なんですか?」

「何でもない」

 

学生として通ううちに頭の中まで子どもになったとか?

中嶋にしては珍しい下らない思考を抱えたまま、大人しく和希の隣に腰を下ろす。

 

途端、濡れた空気が薫ってきて、中嶋は一瞬顔をしかめた。

 

「遠藤。お前、ここに直接来たのか?」

「?そうですけど。え、何か不味かったですか?」

「雨降ってるなか帰ってきたのなら、部屋で着替えてから来い」

「別に濡れてないですけど」

「温かい格好をして来いと言ってるんだ」

 

眉を顰めた中嶋の口から出たのは、そんな言葉。

予想外の労わりだったのか、和希は笑いながら中嶋に抱きつく。

 

「・・・・・必要ないですよ」

「なに?」

「だって、貴方が温めてくれるでしょう?」

 

きゅ、と横から抱きついて。

胸元に摺り寄せられた和希の髪は、やっぱり冷たい夜の空気が纏わりついている。

 

「俺はね、温まるのに一番いい方法を知ってるんですよ」

「何だ?」

「ここで、中嶋さんに抱きしめられるのが、一番早い」

「・・・・・期待には応えないと、な」

「ん・・・・っ」

 

冷たくなった頬に、耳に、口唇に。

次々とキスを落としながら、中嶋は楽しげに笑う。

 

それを甘受しながら、和希は少しだけ温かみを取り戻した手を中嶋の背に回した。

 

 

寒い季節も、貴方がいればきっと。

温かくて、幸せな時間になる。

 

 

 

written date 06/12/16

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