「王様。明日は1人で仕事して下さいね」
「・・・・・・・・は?何だ遠藤、突然?」
「中嶋さんは明日、学生会業務はお休みです」
ニッコリ笑って、それでもキッパリそう言いきった遠藤は、満足げに頷いて手に持ったままの書類を丹羽に手渡した。
「つーか、何で俺が1人で片付けなきゃいけないわけ?ヒデ」
「知るか」
「知るか、ってな・・・お前の恋人だろ、ありゃ」
既にデスクの前から離れ、伊藤と共にソファに座って雑務を片付けている遠藤をアゴでしゃくった丹羽は、ため息をつきながら俺を見る。
「俺は何も聞いていない」
「じゃー何か?遠藤が勝手にお前の予定決めたってこと?」
「そういう事になるな」
「で?」
「・・・・・哲っちゃん。主語も述語もない言葉には答えられないが?」
呆れたような口調になるのは致し方ない。
コイツときたら、いつも頭の中で質問を完成させ、最後の部分だけこちらに振るのだから。
幾ら俺でも、丹羽の頭の中まで把握出来るものか。
「悪ぃ悪ぃ。いやさー、お前の事だから、幾ら遠藤でも勝手したら腹立つんじゃないかなーとか思って」
「ほう、そんな風に見えるか?」
「や、見えないから聞いてるんだけど。いつもだったらもっとおどろおどろしいオーラ背負ってるだろうし」
「・・・・・・・お前は俺を何だと思ってる」
「だってそうだろ?彼女とか、そーいうのでもお前、自分の気が向いた時しか動かねーじゃん」
「今まではな」
「ってことは、遠藤は特別ってわけ?」
急に目を輝かせ、身を乗り出した丹羽の現金さに眉をひそめるが、俺のそんな表情を見慣れたコイツには通用しない。
それどころか、嬉々として答えを待つ始末だ。
「・・・・・お前、アイツがワガママ言ったこと、聞いたことあるか?」
「遠藤が?・・・・・ねぇな」
「そういうことだ」
「はぁ?」
サッパリ分からないといった表情で首を傾げる丹羽から目を離し、伊藤と楽しげに笑う遠藤に視線を移す。
誰かを見て、こんな気持ちを持てるなんて思ったこともない。
笑ってくれるだけでいいと。
そんな風に思えたのは、遠藤だけだ。
「アイツがワガママを言うのは俺だけだからな。俺はそれを聞いてやるだけだ」
「・・・・・・あ、そ」
「というわけで哲っちゃん。明日は任せたぞ」
「―――― マジかよ!?」
「少なくとも会計の犬に突っ込まれるようなスキだけは作るなよ?」
「サボるヒデに言われたかねぇや・・・」
「それこそ普段サボっているお前に言われたくない」
「ちぇー」
仕方ねぇな、と言って頭をガシガシ掻く丹羽を放って、俺はとりあえず明後日に締め切りを控える書類の作成の続きに手をつける。
すると、突然こちらを向いた遠藤が、笑いながら口を開いた。
「中嶋さん。明日、授業終わったら昇降口にすぐ来て下さいね」
「何処に行くつもりなんだ?」
「それは着いてからのお楽しみですvv」
「・・・・・分かった。すぐ行く」
楽しげな遠藤の姿に何も言えなくなって、俺はただ了承の言葉だけを告げる。
まぁ、たまにはこんな時間があってもいいだろう。
そんな風に思って、俺はキーボードを叩く手を速めた。