夏色のメモリー #3


 

 

 

 

人の気配がほとんど無くなった手芸部部室。

約束通り出直して来た中嶋は、問答無用で和希の前に立たされていた。

 

「ほら、中嶋さん。早く制服脱いで」

「珍しく積極的だな」

「っ、馬鹿!浴衣着せるだけでしょう!?もーいいから早くっ!!」

 

怒鳴りながら中嶋のブレザーのボタンを外し出した和希は、微かに頬を紅く染める。


誰よりも共に居る時間が長い恋人なのに、こうして翻弄されるのは自分ばかり。

そんな事実が少しばかり悔しいのに何処か恥ずかしくて、それが顔に出てしまう。


大人で年上なのに、自分より子どもの恋人にやり込められるのは、和希にとっては羞恥をおぼえるものなのだろう。

 

 

「ところで遠藤。お前、結局どんな浴衣にしたんだ?」

「んー?アレ。フクロウのヤツ。可愛いでしょう?」

 

さっきまでの恥ずかしげな表情は何処へやら。

急に楽しげな様子で、ちょっと離れた場所に吊るされた浴衣を見る和希につられて中嶋も視線を向ける。

 

「・・・・・・・・・・・・・お前というヤツは・・・」

 

そこにあったのは、薄いグレーの生地に下の裾部分にフクロウがキャラクターデザインされた浴衣。


女性や子どもなら可愛いのひと言で済ませられたかもしれない。

だが、いい年した大人の男性が着る浴衣でないことだけは確かだ。

 

くま柄を阻止したと思ったのに、これか。

 

そんな事を思った中嶋は、思わず深いため息をつく。


自分が着せられている浴衣は、蒼の無地で下に行くにつれ薄くなって行くグラデーションがかったもの。

シンプルなそれは中嶋の好みには合っていたし、何より彼の秀麗さを際立たせていた。

その浴衣を見れば、決して和希のセンスが悪くないことは分かる。

 

分かるのだが、いかんせん自分の事となるとどうしてこうなのか。

 

 

「え?ダメ?可愛くない?」

「・・・・・・・可愛いとか可愛くないじゃなく、お前、自分が幾つだと思っている?」

「中嶋さん、そればっかり!くまちゃんもダメ、フクロウもダメ。なら、どれならいいんです!?」

「どれって・・・あぁ、こういうのならいいな」

 

脱力している間にすっかり着付けが終わっていた中嶋は、自分の近くにあった浴衣を手に取る。

そのまま和希に向き直った顔には、いつも以上に何かを含んだような笑みを浮かべていた。

 

「俺が着付けてやるよ」

「え・・・中嶋さん、着付け出来るんですか?」

「まぁ、一通りは」

「じゃあ俺、する必要なかったんじゃ」

「そこはそれ、だろう?」

 

何がそこ≠ナ何がそれ≠ネんだろう。

そんな事を和希が思った瞬間、中嶋は耳元で囁く。

 

「お前が俺の腰に手を回しているというだけで、押し倒したくなるな」

「・・・・・・・・・・・・・こんのエロ眼鏡っっ」

 

そこはそれ、の意味を正しく理解した和希はこれ以上になく真っ赤になって怒鳴る。

その姿が何よりも欲情を掻き立てられるんだ、という中嶋の心情は、きっと彼に届くことはないだろう。

 

 

 

written date 06/09/19

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