夏色のメモリー #1


 

 

 

 

『良い子のみんな〜元気かな?暑いなか勉強を頑張っているみんなにご褒美だよ〜!』

 

ベルリバティ名物、くまちゃんの放送ジャック。

放課後のざわめく学園島内にそれが聞こえてきた瞬間、ある一部の生徒以外は歓声をあげた。

 

 

「また・・・あの馬鹿は一体、何を始めたんだ?」

 

その一部の生徒であるところの筆頭、西園寺郁は女王様と呼ばれるほどの秀麗な顔を微かに歪め、ため息をつく。

 

理事長代理なんて言いながら、ズバリ理事長以外の何ものでもないくまちゃん=B


その正体は、年齢を偽って学生生活を送る遠藤和希−本名・鈴菱和希。

日本有数の大企業・鈴菱グループの御曹司にして、立派に成人した大人である。

 

西園寺と共にその正体を知る七条臣もまた、諦めにも似た笑いを浮かべ口を開く。

 

「本当にあの方は・・・今度は一体、何を始める気でしょうか」

「さあな。とにかく、ろくでもない事なのだけは確かだ」

「郁・・・理事長になんて事を」

「思ってもいない事を言うな、臣」

 

七条の曖昧な笑みが、西園寺の言葉を肯定している何よりの証拠。

会計室にため息の二重奏が響いたその時、学生会室でもまた、呆れたような声が上がった。

 

 

「あの馬鹿は一体、何をやらかす気だ?」

 

西園寺と似たような事を口にしたのは、学生会副会長の中嶋英明。

どんな酔狂か、規格外の事ばかりやらかす和希を自ら口説き落とした人物だ。

 

「あんなに面白い玩具をわざわざ人に渡す手はないだろう?」

 

そう言ったとも噂されるが、真相は彼の親友・丹羽哲也と、和希の親友である伊藤啓太しか知らない。

 

とにかく、一部の生徒に当たるところの西園寺、七条、中嶋にとってこの放送は煩わしいもの以外の何でもなかった。

大抵が自分たちに尻拭いが回って来るような事態にばかりなるからだ。

 

ただ会計の二人とは違って、中嶋には若干楽しむ様な節も見受けられたが、最初に文句を付けずにいられないのは本人の性格による所だろう。

 

『もうすぐ夏休みだけど、みんな遊びの予定は立てたかな〜?おっと、ちゃんと勉強もしなきゃダメだよ〜』

 

くまに言われるまでもない、と呟いたのは誰だったか。

しかし、その言葉が彼の耳に届くはずもなく放送は続く。

 

『実は〜夏休みに入る前にダレてしまいがちな毎日に刺激を〜って事でこんなものを用意してみました〜ジャジャン!』

 

いや、見えないよ・・・という生徒のツッコミが上がるなか、あの気の抜けるようなくまちゃんの声が少し高くなる。

 

『暑気払い、夏祭りベルリバティスペシャル〜!』

 

「は?」

「夏祭り?」

「マジかよ!?」

「幾ら理事長だってそこまで・・・」

 

なんでもアリな理事長と知っている3年生からですら、こんな声が上がる始末。

それでも次の言葉に今度こそ大きな歓声が寮内に響く。

 

『明日は1日授業はなし!お祭り楽しんでね〜』

 

「・・・・・あの理事長が計画した祭りなら、相当面白そうじゃね?」

「あぁ、期待出来るよな!」

「花火上がるかな?」

「あの派手好きの理事長だぜ?絶対上がるね」

「間違いない」

 

四方を海に囲まれ、ある意味隔離された島で生活する十代の生徒たち。

届けさえ出せば簡単に島の外には出られるが、それでも頻繁に遊びに行く元気は無尽蔵に湧いて来るものでもない。


何かと鬱憤の溜まりやすい年頃。

たまには、こんな息抜きも必要なのだろう。

 

 

・・・・・ただ単に理事長である和希自身が遊びたかっただけだ。

そんな事実は彼に近しい人物たちの胸の中にずっとしまわれる事になる。

 

 

 

written date 06/08/30

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