バレンタインの災難.


 

 
 
 

「・・・・・臣。何か私の顔についているか?」

「いいえ?郁」

「それなら・・・何故、中嶋は私を凝視しているのだ!」

 

会計部の仲と学生会の仲はとてつもなく悪い。

そう、BL学内では認識されているが、それは少し違う。

正確には七条と中嶋の仲が、だ。

 

実際、西園寺と中嶋の間の会話は、普通のものとして成り立っていたし、七条と丹羽の会話もそう。

学園名物とも言われる西園寺と丹羽の言い合いも、コミュニケーションの1つなだけであり、決して仲が悪いわけではなかった。

 

にもかかわらず、朝食をとる西園寺に突き刺さるような鋭い視線を向けている中嶋が、食堂にはいた。

常ならば、七条に向けているとも言えるぐらいの強い眼差し。

その理由など思い当たらない西園寺は、多少不快な気分になりながら箸を進める。

 

「凝視・・・そうですね。あの人が郁をこんな風に見ているのは珍しいですね」

 

自分ならいざ知らず、と言う七条の顔に浮かぶのは、いつもの柔らかな笑顔。

しかし、それが見せかけだけのものだと知っている西園寺は、自分の幼馴染に視線を向ける。

 

「臣。私を困らせて楽しいか?」

「そんなことは・・・」

「だったら理由に思い当たっているくせに、惚けるのはよせ」

「残念。ばれてしまいましたか」

「・・・・・ばれたくないのなら、そんなに楽しげな表情を浮かべるな」

 

そう西園寺が言えば、僕もまだまだですね、と七条が返す。

その言葉を聞いて、どうしてこの幼馴染はこんな風に育ってしまったのか、と西園寺はため息をついた。

 

「で?中嶋は私に用でもあるのか?」

「用・・・というか、どちらかと言えば文句を言いたいのに言えない、という所じゃないでしょうか」

「文句?」

「はい。無駄にエベレストより高すぎるプライドを持ったばかりに陥ったジレンマですよ」

 

七条の言葉にわけが分からない、といった表情を浮かべ、西園寺はなおも問う。

 

「中嶋のプライドが高いことなんて誰もがすぐに分かるほどだと思うが、それと何の関係が?」

「郁。あまり周りのことに無頓着すぎるのも考えものですよ」

「・・・・臣には言われたくない」

「だって、僕には分かるのに、郁には分からないのでしょう?」

「それとこれとは別問題だ」

「同じですよ。だからあの人だって、イライラしているんでしょうから」

「イライラ?中嶋が?」

「そうですよ。郁が羨ましくて、ね」

 

その言葉に西園寺は、今度こそ目を見開いて首をかしげる。

笑顔の七条と、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる西園寺の組み合わせに、2人の周りからはとうにひと気も無くなっている。

それをいいことに、七条は楽しげな様子で辛辣な言葉を口にした。

 

「遠藤くんがさっき、挨拶に来たでしょう?おまけつきで」

「オマケ・・・あぁ、誕生日プレゼントか」

「それが気に入らないんでしょう。帝王が聞いて呆れますね。肝の小さい」

「羨ましい、とは?」

「大方、今日はバレンタインなのに他の人間にプレゼントなんて、って所ですよ。きっと、バレンタインチョコだと間違われたんじゃないですか?」

 

それを聞いて、肝というより心の狭さを問うべきじゃなかろうか、と思った西園寺の耳に、なおも七条の中嶋批判が届く。

 

「第一、納得いかないながらも、あの人は遠藤くんにあれだけ愛されているというのに何が不満だと言うんですか?あんなに度量の狭い人間がこの学園を束ねる一端を担っていると思うと、僕は理事長に同情したくなります」

「・・・・・何故だ」

「だってそうでしょう?理事長の理想は、才能のある生徒をさらに伸ばせる教育環境です。あんな人がいては、学園生活がいつ改悪されるか分かったものではありません。それに・・・」

 

 

もういい。

お前が中嶋を嫌いなのは分かったから、私を巻き込むな。

 

そんな風に思った西園寺だったが、不幸なことにそれを口にするチャンスには恵まれなかった。

 

 

突き刺さるような視線と、口を挟む暇もない話。

それに挟まれながら、西園寺は怒鳴りたい気持ちを堪える。

 

何故、誕生日の朝だというのに、こんな目に合わなければならないのか。

 

 

ありがとう、と言って遠藤から受け取ったプレゼントを横目に、西園寺は大きなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

「バレンタインの災難」・了 

 

 

written date 06/02/16

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