「誕生日っていうのは恋人と過ごす日なんじゃないんですか!?」
学生会室にキーンと響き渡る和希の声。
そのけたたましさに眉をひそめた中嶋は、渋々といった感じでパソコンのディスプレイから目を上げた。
事の始まりは、年上の美術商・河本を恋人に持つ啓太の言葉だった。
『先月、河本さんの誕生日に旅行行って来たんだ』
『・・・・・・・だから学校休んだのか』
『うん・・・だって河本さん、そこしかお休みとれないって言うし。お祝い、したかったから』
そう言った啓太の表情は、学校をサボった罪悪感より恋人を祝えた嬉しさに溢れていて。
普通の恋愛などしたことのなかった和希は、そういうものだと思ったのだ。
だからこそ、理事長としての仕事を超特急で片付けて、どうにか19日と20日の2日間の休みをもぎ取った。
それも全て、恋人である中嶋の誕生日を祝うためだ。
ところが当の本人と来たら「忙しい」の一言。
年末へ向け、学生会の仕事が忙しいのなんて分かっているけれど。
自分が、どれだけの頑張りでこの日を空けたかなんて、興味もなさそうな表情で切って捨てた中嶋に、和希は本気でキレたのだった。
「っ、もういい!勝手に仕事でも何でもしてればいい!」
「・・・・・・・遠藤」
「煩い!もう貴方なんか関係ない!!」
悔しさと、情けなさと。
喜んでも貰えなかった惨めさとで、ぐちゃぐちゃな気持ちを投げつけるようにして和希は怒鳴る。
そんな様を見た中嶋は、ひとつため息をついて立ち上がった。
「どうしてお前は・・・そう、何でも1人で結論づける?」
「独りよがりですいませんね!勝手に・・・計画なんか立てて・・・・」
「初めから言っておけ、そういうことは」
慌てて背を向けようとしたが、もう遅い。
その長い腕に絡みとられ、一回り大きな中嶋に抱きしめられる。
「・・・・・・・・こっちが忙しいから、お前も忙しいと思っていた」
「え・・・?」
「誕生日だからって、特別何かをする暇なんかないと・・・そう思っていた俺の怠慢だな」
「中嶋さ・・・・」
「―――― 悪かった」
そう言いながら、頬に触れてくる口唇は、酷く優しくて。
和希は、顔を歪めながら口を開く。
「迷惑・・・だった?」
「・・・・・いいや。嬉しかったぐらいだ」
「じゃあ、許してあげます」
泣き出しそうな気持ちを堪え、無理やり作った和希の笑顔に中嶋は一瞬、抱きしめる腕に力を込めた。
初めて一緒に迎えた誕生日は、少しだけ苦い思い出になったけど。
きっと、これから先は、甘い想い出で彩られるだろう。
そんな未来になることを願って。
和希は、中嶋の耳元で祝いの言葉を囁いた。