中嶋さんとの同衾は、それなりに幸せなようなそうでないような。

楽しいような…そうじゃないような。



滅多に見ることのできない眼鏡なしの素顔や、まして寝顔なんて、
どんなに望んだって得られないお宝モノで――

でもそう言いつつ、自分の方が先に寝入ってしまうこともしばしば。
それを踏まえた上で、寝込みを襲われること多々…


「安眠を得たいなら、自分の部屋へ戻って寝ろ」

中嶋さんは開き直って言い切る。
実のところ、初めの頃は自分もそう思っていた。
安眠…のためじゃなく、中嶋さんって人は、用済みの相手をいつまでも、傍に置いてくれたりはしない気がして。


 「あの俺…もう戻りま――…っ痛…」
 「無理はするな。別に追い出したりはしない」
 「で、も…」
 「お前が戻りたいなら好きにしろ」
 「いえ、でも中嶋さん…はどう…?」
 「ここは俺の部屋だぞ? 何処へ追い出す気だ」


初めて部屋に上げてもらえた日。
慣れないニブイ痛みに顔をしかめる相手に、思いがけない労りの言葉。
それ以来、拒まれない限り朝までずっと、汗と煙草と整髪料の匂いの中で――
ベッドと中嶋さんを独占できる幸せ。


「遠藤」
「…なんですか?」
「寝ながらニヤけるな。気持ち悪い」
「気持ち悪いって…」

ムッとして眼を開けた瞬間を狙って、軽やかなキスが降ってくる。

「気持ち悪い顔に、キスなんかしませんよ普通」
「俺は物好きらしいからな」
「好き者の間違いじゃな――…んむッ」

にやりとほくそ笑むその人は、いきなりこちらの鼻先をつまんで反撃を断ち、
怯んだところへおもむろに襲いかかってくる。

ホントに毎回毎回飽きもせず――…


「……」
「なんだ?」

わかりやすく不満げな視線が、射抜くようにこちらを見下ろしてくる。


この人と顔を合わせるのは、ほぼ毎日。
生徒会の雑用によって、それは確実。
でも、今日みたいに部屋に泊まるのは、週にせいぜい2〜3回。
それなりにお互い忙しい身だと、ちゃんと理解しているから――

自分としては、無難なところだと思っているけれど、
この人にとったら…? 百戦錬磨の中嶋さんには…


「あの、中嶋さん…」
「だからなんだと訊いているだろう」
「――中嶋さんはその…飽きたりしてません…か?」
「つまりマンネリだと言いたいわけか」
「ち、違…ッ!」

さすがにストレートには訊きづらかった…のが、裏目に出た。
この人のことだから、わざと誤解したフリってのも、十分ありうるけど。


「なるほどな。それで気も乗らないわけだ」
「だから違いますって…」
「そうか、それなら――」

人の話など、全く聞くそぶりも見せないで、中嶋さんはベッドサイドの携帯を手にし、不敵に微笑んだ。
きっとこんな場面でなければ、一瞬見惚れるくらいの鮮やかさで。

「何が好みだ? コスプレか、拘束か。それとも――…」
「どどどこへかけ……ッじゃなくて!好みも何もフツーでいいです。フツーので…ッ!」

携帯を持つ腕に必死に縋りつくうち、中嶋さん本体にしがみつく恰好になり、
いつの間にか肉感的な胸板に巻き込まれて、諸共再びぼふんとベッドに沈み込んだ。


「ほう…普通の――な」

確かにソレは外されているのに、いつものあの眼鏡のきらり、が、そこに見えた気がした。

思いっきり不本意でありながら、こくこくと頷くしかない我が身がどこまでも恨めしい。


「いくらでも、お前の望むままに」

中嶋さんはそう言って眼を細めたけれど、
どう考えてもいつもより、じっくりたっぷり濃密コースだったその夜。



……あまり深くは語りたくないが。






【locomotion】
Copyright(c) monjirou/ +Nakakazu lovelove promotion committee+


BACK

inserted by FC2 system